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水の城


『水の城―いまだ落城せず(祥伝社文庫)』
(風野 真知雄/祥伝社)

『のぼうの城』と同じく、石田三成による忍城の水攻めが描かれています。こちらの方が先の作品。

こちらの成田長親も「これといって際立つところのない」キャラクターではありますが、丹波の目を通して語られていた『のぼうの城』より主体的に描かれています。自分に武勇の能力が足りないとわかっている長親は、町人や百姓たちの知恵を借りたりしながら、立ち向かっていきます。

また、水攻めで稲穂を水浸しにされてしまったことによる百姓たちの怒りの感情によって、一致団結していく姿も描かれていて、『のぼうの城』がキャラクターを生かした作品であったのに対して、こちらは忍城攻防戦そのものや、領民たちの心理がより細やかに描かれています。

あと、『のぼうの城』との違いとしては、好きな大谷吉継のみならず、真田昌幸・幸村も登場します。

他、成田氏当主の氏長の娘・甲斐姫の描かれ方の違いなんかも、『のぼうの城』と読み比べると楽しいです。

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告白


『告白』
(湊 かなえ/双葉社)

前にokuさんに存在を教えてもらったんですが、そのときは知りませんでした。でも、その後、本屋で平積みになっているのを発見したり、メディアで紹介されていたりと、何かと目に付くようになったこの本。

中学の終業式後のホームルームで、わが子をとある“事故”で亡くした女性教師が、

「娘は事故で死んだのではなく、このクラスの生徒に殺されたのです」

と「告白」する形で物語は展開していきます。

この「告白」の第一章「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞し、本作は、第六章まで加筆した形で刊行されたもののようです。本作がデビュー作というのが驚きです。

この第一章がもともとひとつの作品であるためか、この章が一番、読み応えがあったというか、衝撃を受けました。

二章から先は、一章で登場した人々、同級生から、加害者、その家族までがそれぞれ主人公となり、それぞれの目線で語っていきます。

この第一章では、女性教師が独白形式で、ひたすら語っていくのですが、その様が、ある種の“狂気”を感じさせ、目が離せなくなります。改行があるべきところでも、改行がないといった文体の違和感で、それを感じさせてくれます。


のぼうの城 その2

時は天正18年(1590年)、天下統一を目前にした豊臣秀吉が北条氏を攻めた小田原の役。主人公は、小田原城の支城であった忍城の成田家一門(後に城代)の成田長親。
二万三千にふくれあがった忍城攻めの秀吉側の大将・石田三成の軍勢に対して、女子供を含め、領民をあわせた忍城の籠城兵は三千七百四十人。
物語は、この圧倒的な兵力に対して、小田原城落城まで持ちこたえた忍城の攻防戦が描かれています。

成田長親は、領民から「でくのぼう」を略した「のぼう様」と呼ばれる人物。のぼう様は百姓仕事が好きで手伝おうとするのですが、不器用なために、百姓たちからは迷惑がられる始末。でも、どことなくにくめず、親しまれてもいます。

そんなのぼう様に、成田家一の家老・正木丹波守利英は、ただのでくのぼうかと落胆させられる場面も多いのですが、心の奥底で、ひょっとしたら長親には「将器」があるのでは!? とも思っています。「ただのでくのぼうなのか、それとも……」と読者が感じているギモンやそれに対する答えが丹波の目を通して、語られていきます。

「丹波は、長親の言動に絶えず失望し続けてきたが、一方であの大男の持つ一種の吸引力を、得がたいものと感じていた。決して人を許さぬ和泉が長親には気安く声をかけ、靭負は長親に話し始めるとますます調子が上がり、言葉の留まることを知らなかった。家中の者や百姓たちは、長親をあなどりながらも、かえってそのためかあけすけに腹を割って話しかけた」

カリスマ性や畏怖などで引っ張っていくタイプとは別の、こののぼう様の「将器」は読んでいて楽しいかったです。


『のぼうの城』
(和田 竜/小学館)


のぼうの城 その1

のぼうの城
『のぼうの城』
(和田 竜/小学館)

今夏の直木賞の候補作となった小説『のぼうの城』。

すごく本屋で気になってました。まず、「のぼう」って何なのか? そしてカバーイラストはオノ・ナツメが手がけていて、なんとなく本屋で目立っていたんですよね。

で、ある日、ふと手にとってパラパラと読んでみると、戦国時代ものだったことにまずびっくり(これさえ知らなかった)。さらに、読んでいると、「吉継」という文字がちょくちょく出てきます。興味の入り方が違いますが、もうこれで読んでみようという気になりました。

「百万の人数をあたえて、思うままに戦さをさせてみたい」と秀吉に言わせた、戦国武将・大谷吉継の大ファンなんです。

司馬遼太郎の『関ケ原』(新潮社)を読んで以来、もっとも好きな武将になりました。

『関ケ原(下)』のまさに関ケ原の決戦で、小早川秀秋が西軍を裏切り大谷軍に攻めかかるくだりを読むと、毎回感動してしまいます。

「名将という言葉を、この戦場の敵味方の諸将のなかでもとめるとすれば、大谷吉継こそそうであろう。かれはこの最悪の場合を想定してあらかじめ陣形に伸縮をもたせ、とくに平塚為広、戸田重政の両人に、その場合の先鋒をつとめるよう意をふくめてあったし、また鉄砲隊四百を藤川の西岸に伏せてあった」

と話は逸れてしまいましたが、次回は本書の話を。

つづく


食堂かたつむり

15歳で家を出てから10年ぶりに、母が住む故郷の山あいの村に戻ってきた倫子が、お客は一日一組限定の「食堂かたつむり」をオープンします……。

結論から言うと、命ある食材に対する感謝の気持ち、というテーマの伝え方に自分だったら違うふうに表現するだろうなと感じるところはありますが、一気に読んでしまいました。

本書では、開店準備で自分の食堂をつくりあげる描写にワクワクしました。イメージに合った椅子や店のドア、調理器具を探したり、厨房、床や壁、トイレの内装や外観を仕上げる様子、そしてそれら集大成として最も大事な食堂のネーミングを考えるところなど。

自分が店を開くとしたらどんな感じにしようと勝手に想像してしまいました。

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