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ジョゼと虎と魚たち その1


『ジョゼと虎と魚たち(角川文庫)』
(田辺 聖子/角川書店)

今まで田辺聖子さんといえば、古典モノの作品しか読んだことがなかったんですが、この『ジョゼと虎と魚たち』を読んだときに、なんで古典モノ以外の小説やエッセイを読んでこなかったのだろう、と悔やまれるほどいい作品でした。ここから「乃里子三部作」、『人生の甘美なしたたり』、『苦味(ビター)を少々』、『人生は、だましだまし』、『愛の幻滅』、『感傷旅行(センチメンタル・ジャーニィ)』と、作品を読み続けています。

本書は主にオトナの女性を主人公に様々な恋愛のカタチが描かれた9編からなる短編集。そのいずれもが名作です。全編を通して感じられることですが、そのときどきの女性の心理や心情に「こんなことを考えるのか」とドキッとしたり、また、オトコではあるけれど、たまに「なんとなくわかるなぁ」というところもあったりして、うなってしまいます。

一番最初の短編「お茶が熱くてのめません」での、主人公・あぐりと、7年ぶりに出会った元・恋人、吉岡とのやりとりで、
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「何年ぶりかいなあ」
「六、七年ぐらい?」
とあぐりはいうが、ほんとは七年前に別れたきり、とハッキリわかっている。
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「手紙の文章も巧かったし」
「手紙なんか書いた?」
といいながら、あぐりは実はおぼえている。
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なんてところとか、すでに吉岡に興味を失っている主人公・あぐりではあるものの、“あわれ”を感じて心情が揺れ動く様の描写など読むものの心を惹きつけます。

「吉岡がうまくいって成功して、しれしれ無邪気無神経に自分を傷つけていてほしかった。こんなふうな吉岡を見るのは本意ではないのだ」

つづく


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