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ショートソング その3

「ショートソング その2」のつづき

文中で出てくる歌にはいいものがいっぱいありました。

嬉し泣きしている人の泣き顔は 笑顔と言って良いと思った
(篠田算)

焼きたてのパンを5月の日だまりの中で食べてるようなほほえみ
(篠田算)

※作者名を( )内に記してあります

あと、この本の作者である枡野浩一さんの作品がやはり一番ココロに残ります。

こんなにもふざけたきょうがある以上どんなあすでもありうるだろう
(枡野浩一)

神様はいると思うよ 冗談が好きなモテないやつだろうけど
(枡野浩一)

気づくとは傷つくことだ 刺青のごとく言葉を胸に刻んで
(枡野浩一)

もうこれら作品はやられてしまいました。

あと、枡野さんの作品で見たことない!? 手法というか、快感を感じたのは、同じワードを「これでもかっ」とたたみかけてつくられた作品群です。

無理してる自分の無理も自分だと思う自分も無理する自分
(枡野浩一)

馬鹿中の馬鹿に向かって馬鹿馬鹿と怒った俺は馬鹿以下の馬鹿
(枡野浩一)

やんなくちゃなんないときはやんなくちゃなんないことをさあやんなくちゃ
(枡野浩一)

この本を読むと、むしょうに「短歌」を創作したくなるのです。というか歩いていても、電車の中にいても、タバコを吸ってても、たまに仕事中でも、ふと短歌を考えている自分がいてコワイです。

で、ついに周りの人に送るようになってしまったんですけど(迷惑行為!?)、でもそんな中で、見事な切り返しの素晴らしい一首を送り届けてくれるメールをもらったときは至福の喜びを感じてしまいます。ヤバイです。

というわけで、ここ連日飲みが重なり「休息求ム!」の自分に向けて一首、いや二首を。

つかれてるどうやらオレはつかれてる TOKIOの歌を口ずさんでた
(dsk)

口ずさむおのれにおのれとののしれど じつはけっこう元気もらった
(dsk)

ショートソング (集英社文庫)
『ショートソング』
(枡野浩一/集英社文庫)

ショートソング その2

「ショートソング その1」のつづき

物語も面白く、チェリーボーイ・克夫とプレイボーイ・伊賀の二人の視点で描かれてるところもいいんですが、この話のテーマである「短歌」にやられました。

もともと、このブログのタイトルは正岡子規の

名月や すたすたありく 芋畑

の一句から拝借したものであり、俳句や短歌といったものがもともと好きで、司馬遼太郎さんの本に出てくるようなその時代を反映するようなはやり唄や俗謡なんかも大好きですが、まったく詳しくはありません。

これを読むと、「短歌」を創作したくなります。

文中で語っているような、

「苦しい気持ちは、五七五七七のリズムにのせると、とたんに他人事みたいになって、ほんの少し心が軽くなる」

「僕は今まで読んだ中では、やっぱり伊賀さんの歌が一番好きだ。笑えるんだけど、どこか悲しくて、優しい歌」

こんな歌をつくりたくなります。

そしてちょっとひわい!? な例ではあれど、

それなりに心苦しい 君からの電話をとらず変える体位は
(佐々木あらら)

※作者名を( )内に記してあります

というプレイボーイ・伊賀の一首に対するチェリーボーイ・克夫の感想が、この本で扱っているような短歌のよさを表しています。

「この歌は……あの、ほんとうに面白いと思います。短い言葉なのに、主人公の置かれている状況とかが、ちゃんと伝わってくるし。この人、ひどい男だけれど、自分のひどさを他人事のように観察していて……。哀れな感じがあるっていうか……。僕はまだ一度も女性とつきあったことがないから、この短歌みたいな経験は全然ないですけど、まるで自分で体験したみたいに、この気持ちが実感できました」

これってちょっとわき道に逸れますが、山下敦弘監督の作品で感じるような感覚なんですよね。例えば『リンダ リンダ リンダ』や『天然コケッコー』での、あんな学生生活を送ってないのに、なぜか懐かしいといった。

ショートソング (集英社文庫)
『ショートソング』
(枡野浩一/集英社文庫)

つづく

ショートソング その1

前回登場したIさんにはキム・ギドク事件!? 以来、とても好みにあった本やマンガを貸してもらったりしてるんですが、この前借りたのがこの本です。

ショートソング (集英社文庫)
『ショートソング』
(枡野浩一/集英社文庫)

これは私が住んでいる吉祥寺が舞台ということのみならず、実在のお店なんかも出てきて、まずそれが楽しいです。

「ごめん」も「待った?」もなく、いきなり舞子先輩は言った。小雨の降る寒い寒い吉祥寺駅、サーティワンの前で二十五分も待っていた僕に。

と一ページ目に、いつも喫煙してるあの場所で!、とさっそく思い浮かべることができます。

さらに、お気に入りのお店「Hun Lahun(フン ラフン)」が出てきたのはうれしかったです。しかもシチュエーションがスゴク想像できるんですよね。

ブックオフの前に自販機があるから、そこに着いたら、携帯に電話しろと言われている。
「もしもし伊賀さん? 国友です。今、自販機の前に着きました」
「そこで、上のほうを見ろ。斜め四十五度」
言われたとおり上のほうを見ると、窓際の席で伊賀さんが片手を上げていた。

でもこの本の魅力は何といっても「ショートソング=短歌」です。

つづく

手紙 その3

「手紙 その2」のつづき

あと、平野社長の言葉は全面的には同意できないところがあって、社長の答えとも主人公の答えとも違う何か自分にとってより納得のいく答えがあるのでは、それを探していきたいと思いました。

ただ、2度目の再会の時に、平野社長が言ったセリフはココロに残りましたね。

いついかなる時も正々堂々としているというのは、君たちにとって本当に苦渋の選択だろうか。私にはそうは思えないな。わかりやすく、非常に選びやすい道を進んでいるとしか思えないが。

また、剛志がおふくろの話のときに語った内容が印象に残りました。

優しい人間でも、いつもいつもその優しさを誰にでも示せるものじゃないってことだ。あっちを取ればこっちを取れない。そういうことっていっぱいあって、何かを選ぶ代わりに何かを捨てるってことの繰り返しなんだな、人生は。

手紙 (文春文庫)
『手紙』
(東野圭吾/文春文庫)

つづく

手紙 その2

「手紙 その1」のつづき

この物語で一番気になるのは由美子の存在です。直貴をずっと見守り続ける由美子。

でも、ちょっとだけ感情移入仕切れなかったのは、最終的に由美子の心情が把握できずにぼやっとしてしまったからだと思います。

もちろん同情ではなく、恋だけではなく、無償の愛といったものが一番近いとは思うんですけど、ちょっと完全に合点がいかずモヤモヤ感が残るんですよね。「どうして俺のためにこんなことまでしてくれるんだ」って直貴の問いに対して答えてはいるんですけど、その答えが決定的な理由になってないような気がして。

自分の親に対してはどうなのかとか考えてしまったり。

でも、兄貴への手紙や、平野社長への手紙なんかは恋だけではできることではないし、さらに、もし直貴が朝美とうまくいったとしてもそのまま受け入れるような気もするので、やはり無償の愛というのが一番近いんでしょうね。

手紙 (文春文庫)
『手紙』
(東野圭吾/文春文庫)

つづく

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